2025年12月の半導体ニュースまとめ

2025年12月、半導体およびAI業界はかつてない激動の年末を迎えました。生成AIブームが引き起こした「スーパーサイクル」は、単なる需給の波を超え、国家間の覇権争いや技術パラダイムの転換へと発展しています。今月観測された膨大なニュースの中から、今後の産業界を左右する最も重要な10のトピックを抽出し、詳細に解説します。

  1. NVIDIA H200の対中輸出承認と「パックス・シリカ」の攻防
    米国政府は、NVIDIAの高性能AIチップ「H200」の中国向け輸出を条件付きで承認する方針を固めました。これには25%の手数料(関税)が課される見込みであり、トランプ政権下での新たな技術貿易戦略の一環と見られています。一方で、米国議会からは中国のAI能力強化を懸念し、H200やBlackwellを含む先端チップの輸出を30ヶ月間禁止すべきだという強硬な意見も出ており、政権内での足並みの乱れも露呈しました。 これに対し中国側は、HuaweiやCambricon(寒武紀)などの国産チップを調達リストに加えるなど、「自立自強」の動きを加速させています。Huaweiの昇騰(Ascend)910Cなどの成熟が、米国の輸出規制緩和を促したとの見方もあります。また、NVIDIA自身も、東南アジアを経由した密輸ネットワークの摘発を受け、チップの追跡技術を導入するなど、コンプライアンス強化に追われています。米中間の技術覇権争いは、単なる遮断から、関税や追跡技術を駆使したより複雑な管理競争へと移行しており、「パックス・シリカ(シリコンによる平和)」と呼ばれる半導体を中心とした新たな地政学的秩序の形成が模索されています。
  2. 「メモリ・スーパーサイクル」の到来と価格高騰の波紋
    AIサーバー需要の爆発的な増加により、メモリ市場は「スーパーサイクル」と呼ばれる強力な好況期に突入しました。特にHBM(広帯域幅メモリ)の供給不足は深刻で、Micronは2026年分のHBM供給枠が既に完売したことを明らかにしています。この影響は汎用DRAMやNANDフラッシュにも波及しており、2026年に向けてDRAM価格の急騰が予測されています。 SamsungとSKハイニックスは、次世代のHBM3EやHBM4への移行を前に、大幅な値上げを計画しています。このコスト増は最終製品にも転嫁され始めており、DellやLenovoなどのPCメーカーは、2026年初頭からの製品価格引き上げを示唆しました。さらに、スマートフォン市場でもメモリコストの上昇が出荷台数の重荷になると予測されており、AIの恩恵を受ける企業と、コスト増に苦しむハードウェアメーカーとの間で明暗が分かれつつあります。Micronがコンシューマー向けブランド「Crucial」を縮小・撤退し、エンタープライズ向けにリソースを集中させたことは、この市場構造の劇的な変化を象徴しています。
  3. TSMCの2nmプロセス達成と「N-2」ルールの堅持
    世界最大のファウンドリであるTSMCは、中国による軍事演習や台湾でのM7.0地震といった地政学的・自然災害リスクの中でも、最先端の2nmプロセス技術のマイルストーンを予定通り達成しました。高雄工場での量産準備が進む一方、海外展開においては台湾政府の「N-2」ルール(海外工場は本国より2世代前の技術に留める)が再確認されました。これにより、米国内で最先端チップを製造したいAppleやNVIDIAなどの顧客に対し、TSMCのアリゾナ工場では最先端技術の提供が制限される可能性があります。 また、TSMCは熊本第2工場について、AI需要の急増を受けて当初の計画(6nm/7nm)からより高度な4nmプロセスへの転換を検討していると報じられました。しかし、米国アリゾナ工場では官僚的な手続きの壁に直面するなど、グローバルな製造拠点の分散化は一筋縄ではいかない現実も浮き彫りになっています。圧倒的な技術的優位性を背景に、TSMCは2026年から2029年にかけて最先端プロセスの価格を引き上げる計画もあり、ファウンドリ市場での支配力は揺るぎないものとなっています。
  4. Samsungの逆襲:2nm「Exynos 2600」とHBM4での猛追
    ファウンドリとメモリの両面で苦戦が伝えられていたSamsung電子ですが、年末にかけて巻き返しの兆しを見せました。業界初となる2nm GAA(Gate-All-Around)プロセスを採用したモバイルプロセッサ「Exynos 2600」の仕様を公開し、量産体制にあることをアピールしました。このチップはAI性能が前世代比で113%向上しており、次期Galaxyシリーズへの搭載が見込まれています。 メモリ分野では、次世代の「HBM4」において、NVIDIAのテストで競合を上回る性能を記録したとの報道があり、SKハイニックスの独走に待ったをかける構えです。さらに、AI推論チップの新興企業Groqとの大型契約や、NVIDIAからのHBM供給シェア獲得の可能性も浮上しており、「再設計」を経て技術的な信頼性を取り戻しつつあります。テスラやxAIとの連携強化も進めており、2026年に向けたAI半導体市場での復権をかけた総力戦を展開しています。
  5. 日本「Rapidus」への支援強化と先端パッケージング技術
    日本の最先端半導体国産化プロジェクト「Rapidus」に対し、日本政府や金融界からの支援が新たな段階に入りました。政府はRapidusへの融資に対し80%を保証する枠組みを整備し、民間銀行からの資金調達を強力に後押ししています。また、ソフトバンクやキヤノンなどからの出資や技術協力も確保し、2027年の2nmチップ量産に向けた体制を固めつつあります。 技術面では、RapidusはTSMCに対抗するための鍵として、600mm角という巨大なガラス基板を用いたパッケージング技術(ガラスインターポーザ)を披露しました。これは複数のチップを接続して性能を引き上げる「チップレット」技術の要となるものであり、前工程(微細化)だけでなく、後工程(実装)においても世界最先端の競争に参加する意志を示しています。北海道の工場にはIBMの製造実行システムが導入されるなど、量産に向けた具体的な準備が着々と進んでいます。
  6. SKハイニックスのAI戦略:HBM4前倒しと米国展開
    HBM市場のリーダーであるSKハイニックスは、NVIDIAの次世代AIアクセラレータ「Rubin」の計画に合わせて、HBM4の量産スケジュールを調整しています。当初の計画より前倒しし、2026年初頭には量産を本格化させる見通しで、TSMCとの協業を通じて最終サンプルの出荷を開始しました。また、汎用DRAMにおいても、1セルあたりの容量を10倍に増やす新技術へのシフトを進めています。 さらに、同社は米国において、AIチップ向けの先端パッケージング(2.5D)ラインの建設を検討しています。これは、顧客であるNVIDIAやAmazonなどの米ビッグテックとの物理的な距離を縮め、HBMとパッケージングを一括提供する「ターンキー」戦略でTSMCに対抗する狙いがあります。シアトルに新オフィスを開設する動きもあり、米国市場でのプレゼンスを製造・開発の両面で強化しています。
  7. AIデータセンターの電力・インフラ課題と「光電融合」
    AIモデルの巨大化に伴い、データセンターの消費電力が爆発的に増加しており、エネルギー供給が産業のボトルネックとなりつつあります。米国ミシガン州ではOpenAIとOracleの巨大データセンター計画が電力・環境問題で地域との摩擦を引き起こしました。こうした中、電力効率を劇的に改善する技術として「光電融合(シリコンフォトニクス)」への注目が高まっています。 Marvell Technologyは光インターコネクト技術を持つCelestial AIを買収し、台湾政府も国家AI戦略の柱としてシリコンフォトニクスを掲げました。TSMCやUMCも関連技術のライセンス取得や開発を加速させています。また、日本政府は再エネや原発を活用したデータセンターへの巨額補助を決定し、エネルギーインフラと計算基盤のセットでの整備を進めています。2026年は、AIの進化がエネルギーの制約をどう突破するかが問われる年になります。
  8. 中国の半導体自立と「EUV」技術の進展
    米国の厳しい制裁下でも、中国の半導体産業はしぶとく生き残り、進化を続けています。上海微電子装備(SMEE)が国内初となるEUV(極端紫外線)リソグラフィ装置のプロトタイプを開発したとの報道があり、ASMLの独占を崩す長期的な可能性を示唆しました。また、GPUメーカーのMoore ThreadsやBiren Technologyは、米国の規制をかいくぐる形でIPO(新規株式公開)を目指しており、資金調達による開発加速を狙っています。 SMICなどのファウンドリは、成熟プロセス(レガシーノード)の価格を引き上げるなど、内需を背景に収益性を確保しつつあります。米国シンクタンクは、中国がマルチパターニング技術を駆使して規制対象の先端チップを製造している「抜け穴」を警告していますが、中国は国家ファンドを通じた巨額投資と国内エコシステムの統合により、サプライチェーンのデカップリング(切り離し)に対する耐性を強めています。
  9. Intelの苦闘とファウンドリ事業の行方
    かつての半導体王者Intelは、経営再建の正念場を迎えています。ゲルシンガーCEOの下で進めてきたファウンドリ事業の分離・独立や、製造プロセスの微細化競争(18Aなど)において、成果と課題が混在しています。最新の高NA EUV装置の導入や、インドのタタ・グループとの提携など前向きなニュースがある一方で、NVIDIAなどの主要顧客がIntelの製造プロセス採用を見送ったとの報道もあり、信頼回復には至っていません。 さらに、トランプ政権の経済顧問を政府担当の責任者に任命するなど、政治的なロビー活動を強化し、CHIPS法に基づく補助金の確保に奔走しています。一時は大型合併の噂もありましたが、自社での再建を模索しつつ、一部事業の売却やコスト削減を断行しています。2026年はIntelが主要プレイヤーとして踏みとどまれるか、あるいは解体の道を歩むかの分水嶺となります。
  10. 「フィジカルAI」とエッジコンピューティングの台頭
    AIのトレンドは、クラウド上の大規模言語モデル(LLM)から、現実世界で物理的な動作を行う「フィジカルAI(Physical AI)」や、端末側で処理を行う「エッジAI」へと広がりを見せています。経済産業省はロボット向けの国産AI開発に1兆円規模の支援を決定し、ソフトバンクなどもこの分野に注力しています。ヒューマノイドロボットや自動運転車、産業用ロボットなどがAIの新たな適用先として急浮上しています。 これに伴い、エッジ側での推論処理に特化したNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)や、低消費電力な推論用チップの需要が高まっています。QualcommがRISC-V技術を持つ企業を買収したり、Appleが次世代チップで推論機能を強化したりする動きは、AIの主戦場が「学習」から「推論・実行」へとシフトしていることを示しています。2026年は、AIがデジタルの世界を飛び出し、物理的な労働やサービスを変革する元年になると予測されます。
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