9月の半導体ニュースまとめ

AIと半導体が牽引する世界市場:激化する技術覇権とサプライチェーン再編の波

目次

序章:AIと半導体の熱狂、市場の主戦場は「次世代」へ

2025年9月は、グローバルなテクノロジー市場、特にAI(人工知能)と半導体産業において、大規模な投資、技術革新、そして激しい地政学的な再編が同時に進行した時期として特筆されます。市場の焦点は、単なるチップの高性能化から、それを支えるインフラ全体へと移行し、「AI時代」の覇権を巡る競争はかつてない高みに達しています。

第1章:AIインフラ競争の巨大化と「強者連合」の誕生

AI時代の幕開けを象徴するのが、NVIDIAとOpenAIによる前代未聞の戦略的提携です。NVIDIAは、OpenAIに対して最大15兆円(1,000億ドル)もの巨額投資を行い、超巨大なAIデータセンターの構築を計画しています。これは、AIの処理能力に対する需要が爆発的に増加している現状を如実に示しており、OpenAIはさらにOracleと今後5年間で3000億ドル相当の計算能力を購入する契約も締結しました。AIインフラへの投資はグローバルに広がり、Microsoftも英国で4年間で4.4兆円をAIインフラ整備に投じると発表しています。

また、米国の主要テック企業間では、国家的な半導体競争を背景にした「強者連合」が形成されています。特に注目すべきは、NVIDIAがIntelに50億ドルを投資し、AIスーパーチップの共同開発に着手した点です。この提携は、米国政府が推進する半導体サプライチェーンの国内回帰(ソブリンAI)政策とも関連しており、Intelのファウンドリ事業の強化と、NVIDIAによるAIインフラにおける主導権維持を目的としています。

このAIの熱狂は、市場の次のフロンティアを再定義しています。クアルコムのCEOは、今後の最大の市場はスマートフォンではなく、ロボットとフィジカルAI(Physical AI)であり、その規模はスマホ市場を超えるだろうと強調しています。これに対応するため、クアルコムは次世代のAI PCプロセッサ「Snapdragon 8 Elite Gen 5」や「Snapdragon X2 Elite Extreme」を発表し、エッジAI分野での協力をアドビと強化するなど、AIの実行環境がクラウドからエッジへと拡大する流れを加速させています。

第2章:半導体製造と地政学の最前線

ファウンドリー市場の勢力図は、TSMCの独走状態が顕著になっています。2025年第2四半期には、TSMCの市場シェアは70%を突破し、Samsung電子との格差は拡大しました。さらに、次世代の核となる2nmプロセス技術に関しても、TSMCは既に最大15社の顧客(そのうち10社がHPC製品向け)を確保し、圧倒的な需要を獲得しています。

これに対し、SamsungとSK Hynixは、次世代技術であるHigh-NA EUV露光装置の導入を加速させています。SK Hynixは、業界で初めてASMLの高NA EUVを利川のM16ファブに導入する先頭に立っており、Samsungも購入を検討することで、2nm競争におけるTSMCとの差を縮めることを目指しています。また、ASMLは2027年までに56台の低NAおよび10台の高NA EUV装置の納入を予定していると報じられています。

一方、地政学的な緊張は、アジアの半導体サプライチェーンに深刻な影響を与え続けています。米国は、中国に対する規制をさらに強化し、SamsungとSK Hynixの中国工場向けチップ製造装置ライセンスを撤回しました。さらに、TSMC南京工場に対する免除措置も2025年末で終了する見通しであり、これにより韓国企業は中国工場への輸出に関して年間サイトライセンスの導入を検討されるなど、不安定な立場に置かれています。

こうした米国の圧力に対抗し、中国国内ではAIチップの国産化が猛スピードで進められています。Huaweiは、自社製HBMを搭載した新世代AIチップ「Ascend 950」と「SuperPoD」を発表し、NVIDIAに対抗する姿勢を明確にしました。また、AlibabaのT-Head PPUがNVIDIA H20の性能に匹敵するという報道もあり、中国は国内技術による自給自足を急ピッチで進めています。

日本では、半導体産業の再興に向けた動きが活発です。Rapidusは、Keysightとの協業を通じて2nm GAAチップ向けの高精度PDK(プロセス設計キット)実現を目指し、Intel 18Aを上回る論理密度を目指すなど、先端技術開発を推進しています。また、経済産業省はMicronの広島工場における次世代DRAM生産に対し、最大5000億円の助成を行うことを決定しました。

第3章:メモリ市場の高騰と次世代HBM競争

AIサーバー需要の急増を背景に、メモリ市場は記録的な価格高騰の局面を迎えています。Samsungは2025年第4四半期にDRAM価格を最大30%、NAND価格を10%引き上げる計画であり、DDR4のスポット価格も供給の逼迫により急騰しています。

特にAIチップの性能を左右するHBM(High Bandwidth Memory)では、日韓の競争が激化しています。SK Hynixは、世界で初めてHBM4の開発を完了し、量産体制に入ると報じられ、NVIDIAの承認獲得を目指しています。Samsungも、長期にわたる遅延を克服し、12H HBM3eがNVIDIAのテストを通過したとされ、次世代メモリの主導権を巡る争いは熾烈を極めています。

第4章:国際貿易摩擦と新たな懸念事項

半導体とAIを巡るグローバルな競争は、外交や労働問題にも波及しています。特に、米国国内にある韓国系企業工場で、韓国人労働者300人がビザ関連の疑いで拘束されるという異例の事態が発生し、これは米韓間の外交問題に発展しました。現代自動車はこの事態により、米国内の工場建設が最大3ヶ月遅れる可能性があると発表し、トランプ大統領(当時)も海外企業の投資に悪影響を及ぼさないよう配慮を求めていますが、企業側の対米戦略の見直しを迫る事態となっています。

また、米国は日本との貿易協定を文書化し、日本の自動車関税が27.5%から15%に引き下げられることなどが盛り込まれました。一方で、インドは米国の50%関税の打撃を受けながらも、モディ首相が改革推進へと転換を図るなど、各国が貿易環境の変化に適応するための対応を急いでいます。

結論:技術と政治が絡み合う複雑な未来

半導体とAIは、今や技術革新だけでなく、国家の安全保障と経済政策の中心となっています。TSMCの優位性、米国の規制強化、中国の国産化推進、そして日韓の次世代メモリ競争は、すべて相互に絡み合いながら未来を形作っています。特に、AIデータセンターへの莫大な資金投入と、HBMや2nmといった先端技術の競争は、今後の数年間の産業の方向性を決定づけるでしょう。技術的リーダーシップの確保は、今や「AI強国」への飛躍を目指す各国にとって最も重要な課題であり、その動きは今後も国際情勢に大きな影響を与え続けることが予想されます。

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