製造業で応用できるAIニュース 2025/6/15-6/21

今週のニュースから製造業で使えるAIニュースをピックアップしました。

AI技術の急速な進化は、世界の製造業に大きな変革をもたらしています。人手不足の解消から生産性の向上、さらにはサプライチェーンのレジリエンス強化、倫理的な課題への対応まで、各国で様々な取り組みが進められています。

欧州の主要な動き:産業用AIクラウドの構築 ドイツテレコムとNvidiaは、欧州初の「産業用AIクラウド」を構築中です。このプラットフォームは10,000基のGPUを擁し、ドイツおよび欧州本土の製造業向けにセキュアで主権的なAIデータセンターインフラを提供します。目的は、欧州のAI導入を加速し、特に産業4.0市場を「スプリント」させ、産業5.0への道を開くことです。これは、海外クラウドへの依存を減らし、欧州の技術的自立と競争優位性を高める戦略的な動きと位置づけられています。ドイツテレコムのCEOは、「欧州の技術的未来には、歩みではなくスプリントが必要だ」と述べています。

カナダの投資:製造業労働者へのAIトレーニング カナダのニューファンドランド・ラブラドール州政府は、製造業の労働者向けAIトレーニングに100万ドル以上を投資しています。これは、国際貿易の不確実性の中、コスト削減と効率向上を通じて地方の中小製造業者を強化し、AIを実用的に活用できるスキルを身につけさせることを目的としています。このマイクロクレデンシャルプログラムは、Keyin Collegeによって開発され、AIを活用してサプライチェーンを最適化し、市場を多様化し、顧客関係を強化する可能性を秘めています。

英国の焦点:AIと持続可能な製造 英国のバーミンガム大学が主導する新しい研究ハブ「Co-AIMS (Collaborative AI for Manufacturing Sustainability) Hub」は、1370万ポンドの資金を得て、2050年までのネットゼロ目標達成を目指しています。このハブは、AIを活用して廃棄物を削減し、生産性を高め、製造業の持続可能性を向上させることに注力しています。倫理的なAI導入を推進し、自動車、航空宇宙、クリーンエネルギー、食品・飲料などの分野で安全かつ包括的な技術を提供します。

日本の進展:エッジAIとサプライチェーンのレジリエンス 三菱電機は、エッジデバイスで動作する製造業向け言語モデルを開発しました。これは、大規模言語モデル(LLM)の莫大な計算コストとエネルギー消費を削減し、データプライバシーに配慮したオンプレミス環境での利用ニーズに対応します。独自の学習データ拡張技術により、製品マニュアルやコールセンター応対履歴など同社保有データを用いて製造業に特化し、ユーザーの用途に最適化された回答生成を実現します。これにより、スマートファクトリーやエッジロボティクスなど、計算リソースに制約のある多様な分野でのAI導入を支援します。 また、日立製作所は、AIを用いて自然災害やパンデミックに対する製造業サプライチェーンの強靭化技術を開発しました。この技術は、AIがオープンデータから製品情報と関連するリスク(自然災害、貿易規制、サイバー攻撃など)を紐付け、サプライヤーの代替候補を迅速に特定することで、リスク評価と管理を強化します。これにより、調達先の見直しといった迅速な対応が可能になり、サプライチェーンのレジリエンス強化に貢献します。

中国の戦略:電子情報製造業のDX加速 中国の工業情報化部などは、「電子情報製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた実施プラン」を発表し、2027年までに主要工程の数値制御化率85%超を目標に掲げています。2030年までには、より完備されたデータ基盤制度とデジタルエコシステムを完成させ、製造業全体のスマート化に貢献することを目指します。

製造業におけるAIエージェントの活用 AIエージェントは、人間の指示に基づいて自律的にタスクを実行するAIプログラムで、生成AIや大規模言語モデル(LLM)の進化により注目されています。特に製造業では、予知保全自動スケジューリングに活用が進んでいます。

  • 予知保全の進化: 機器の振動、温度、音、消費電力などのセンサーデータをリアルタイムでモニタリングし、異常の「前兆」を高精度で検知し、保全業務の効率化を図ります。ダイキン工業と日立製作所は、業務用空調機器の生産工場で設備故障診断AIエージェントの試験運用を開始し、故障原因と対策の推定精度が90%以上に達したと報告しています。
  • 自動スケジューリングの高度化: 生産計画、人員配置、設備稼働、納期、在庫など多くの複雑な条件をリアルタイムで考慮し、最適なスケジュールを自動で再構成することが可能になります。

AI導入の課題と倫理的考慮事項 AI活用の必要性は認識されているものの、製造業を含む多くの企業(約7割)が「業務に活用できていない」のが現状です。主な課題は、「どの業務に使えばよいか分からない」という適用イメージの不足、スキル不足、セキュリティへの懸念、社内相談体制の不備です。 また、製造業におけるAI導入では倫理的AIが重要です。AIは強力なツールである一方で、誤りやバイアスの影響を受けやすく、その悪用は公共の安全やサイバーセキュリティを脅かす可能性も持ちます。欧州連合(EU)の倫理ガイドラインでは、人間による監視、技術的堅牢性、データプライバシー、透明性、多様性・非差別性・公平性、社会的・環境的福祉、説明責任の7原則が提示されています。具体的な対策として、明確な測定基準の設定、バイアスの除去、アカウンタビリティの受容が不可欠です。

AIの未来:自律化と意思決定支援 AIエージェントは、「指示待ち」から「自ら判断し行動する」自律型エージェントへと進化し、人間が行う複雑な分析やリスク評価を高速で処理し、最適な選択肢とその理由を提示する意思決定支援AIとしての役割も拡大しています。これにより、AIは単なるツールではなく、人間の「考える補佐役」として、ビジネスにおけるより高度な意思決定をサポートするパートナー的存在へと変わりつつあります。

結び 世界の製造業はAIを通じて、効率化、コスト削減、そしてより持続可能でレジリエントな未来へと向かっています。課題は存在するものの、AIを戦略的な「共創パートナー」として捉え、その可能性を最大限に引き出すことが、これからの企業競争力を左右する鍵となるでしょう。2025年以降、AIエージェントはさらに高度に進化し、人とAIが協働する新しいワークスタイルの中心となっていくと予想されます。

出典

  • Excerpts from “Deutsche Telekom taps Nvidia to build Europe’s “first industrial AI cloud””
  • Excerpts from “Equipping Local Manufacturing Workforce with Artificial Intelligence Training – News Releases – Government of Newfoundland and Labrador”
  • Excerpts from “Ethical AI: Key Considerations for the Manufacturing Sector – Copperberg”
  • Excerpts from “How is generative AI impacting our economy, society and policy? – EU Science Hub”
  • Excerpts from “New research hub could revolutionise AI-based manufacturing – University of Birmingham”
  • Excerpts from “【調査発表】企業の約7割が「AIを業務で活用できていない」 – PR TIMES”
  • Excerpts from “エッジデバイスで動作する製造業向け言語モデルを開発 | 三菱電機株式会社のプレスリリース”
  • Excerpts from “急速に進化するAIエージェント〜2025年業界別の動向とは?〜 – Aidiotプラス”
  • Excerpts from “自然災害やパンデミックに対して製造業サプライチェーンを強靭化する技術を開発 – 日立製作所”
  • Excerpts from “電子情報製造業のDX化加速へ、実施プラン発表(中国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース”
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