【2025年11月 半導体市場動向】AIチップ戦争の激化、価格高騰、そして地政学的緊張の行方

現在のテック業界は、AI(人工知能)チップを巡る覇権争い、供給制約による価格の急騰、そして複雑化する地政学的リスクが絡み合う、極めて重要な転換期にあります。

11月に観測された主要なニュースは、単なる一時的なトレンドではなく、今後数年間のデジタルインフラと製造業の技術開発の方向性を決定づけるシグナルと言えます。本記事では、11月の半導体業界の主要な動きを5つの視点から概観します。


1. 「NVIDIA一強」への対抗勢力とサプライチェーンの再編

NVIDIAは2026会計年度第3四半期においても過去最高の売上・利益を記録し、依然としてAIチップ市場の絶対王者として君臨しています。同社はSamsungやSKグループなど韓国勢と連携を深め、25万個以上のチップ供給を通じて産業界のAI化を推進しています。

しかし、この「一強体制」に対し、巨大ハイパースケーラー(CSP)による包囲網が形成されつつあります。

  • Google & Metaの動き: Metaは将来的にGoogle製TPUの採用を検討しており、Google自身も第7世代TPU「Ironwood」を発表。Broadcomや台湾GUCなどを巻き込んだ新たなサプライチェーン(「反NVIDIA同盟」)が構築されつつあります。
  • ASICエコシステムの強化: NVIDIA自身もこの動きを静観しているわけではなく、Synopsysへの巨額投資を通じて、ASIC設計のエコシステムを強化し、防衛線を張っています。

2. TSMCの価格改定と設備投資競争

ファウンドリ市場の巨人、TSMCの動きは業界全体のコスト構造に直結します。

  • 価格引き上げ: 先端プロセスへの「巨大な」需要を背景に、TSMCは2026年から先進チップ価格を最大10%引き上げる見通しです。
  • 設備投資の増大: CoWoS(Chip-on-Wafer-on-Substrate)の生産能力増強に向け24時間体制を敷き、2026年の設備投資額(CapEx)は約500億ドルに迫ると予測されています。これは、コスト上昇が最終製品価格へ転嫁される可能性を強く示唆しています。

一方でIntelは、IDM 2.0戦略の下でファウンドリ事業を推進していますが、TSMCからの技術者引き抜き疑惑や台湾当局による捜査など、人材獲得競争においても火花を散らしています。

3. メモリ市場の「スーパーサイクル」到来

DRAMおよびNAND市場は、AI特需により「10年に一度のスーパーサイクル」に突入しました。

  • 価格高騰: DDR5のスポット価格は供給逼迫により30%急騰。NAND価格も半年で倍増しており、PhisonのCEOは数年にわたる供給不足を警告しています。
  • Samsungの戦略: 利益率70%超を目指し、NAND生産ラインをDRAMへ転換するなど、高収益なAI向けメモリ(HBM4など)への集中投資を加速させています。
  • 影響: この価格上昇は既にPCやスマートフォンの出荷コストに影響を及ぼし始めています。

4. 地政学リスクと国家プロジェクト:中国の国産化 vs 日本のRapidus

米中の技術覇権争いは、サプライチェーンの分断をさらに深めています。

  • 中国: 政府主導で「脱NVIDIA」を進め、ByteDanceなどに国産チップの使用を義務付けたと報じられています。また、Nexperia(安世半導体)を巡る問題では、ウェハ供給停止による在庫枯渇が懸念され、自動車メーカー等は代替策の模索を余儀なくされています。
  • 日本: Rapidusが2029年の1.4nmプロセス生産開始を見据え、北海道での第2工場建設を計画。政府からの追加支援や、富士フイルムなどの材料メーカーによる新棟稼働、産総研のGAAパイロットライン構築など、国を挙げた「半導体復興」が具体化しています。

5. 次世代技術:先進パッケージングとCPOの台頭

ムーアの法則(実際はデナードの法則)の限界を超えるため、競争の軸足は「微細化」から「パッケージング」へと移行しています。

  • パッケージング投資: ASEなどが巨額の設備投資を行い、QualcommやAMDもAIチップ市場でのシェア拡大を狙い、次世代製品(Snapdragon X2, Instinct MI400など)を投入しています。
  • 光電融合(CPO): AIデータセンターの電力効率を劇的に改善するため、電気と光を融合させるCPO技術の実用化が進んでおり、TSMCなどもこの分野での発信を強めています。

【総括】物理インフラへの回帰と投資の持続可能性

今月のニュースを総括すると、AIブームは単なるソフトウェアの熱狂ではなく、「物理的なインフラ(AI工場)」と「製造能力」の確保こそが競争の本質であるというフェーズに移行したと言えます。

NVIDIA CEOが指摘するように、まずは物理インフラを構築することが優先されていますが、一方でAmazonやOracleなどの巨額投資に対する「AI債務リスク」もウォール街からは懸念されています。

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